2011年6月1日水曜日

池谷信之さん「日本考古学協会大賞受賞」に思うこと

こんばんは。YOKOYAMAです。

先週末の日本考古学協会にて、池谷信之さんが第一回協会賞の「大賞」を受賞されたとの情報が届きました。協会のオフィシャルWEBには、まだ詳細がUPされていないようですが、こういうことは新鮮なうちのほうが良いと思いますので、私の感じたことを書きとめておきます。




この「受賞」をまとめると、以下のようになるかと思います。

池谷さんが
(1)沼津高専望月研究室のエネルギー分散型蛍光X線分析法に着目し、
(2)黒曜石産地の判別図法を望月氏と共同開発し、
(3)その手法を考古学のなかに体系的に導入し、
(4)歴史の解明に結びつけた。
(5)この功績により、今回、日本考古学協会から最高の評価を受けた。


私が池谷氏に初めてお会いしたのは’90年代半ば、氏がちょうど土手上遺跡などの調査に、黒曜石産地の「全点分析」を適用し、興味深い成果が出はじめたころでした。当時まだ学部生だった私達にまで、嬉しそうにその新しい方法、成果、可能性についてお話してくれました。そしてその後もお会いするたび・・というか現在でも、次々に蓄積される新しいデータ、新しい知見を喜々として教えてくれます。

氏の著書「黒曜石考古学」の冒頭には、蛍光X線分析、判別図法という当時まだ馴染みの薄かった研究スタイルへの不当な評価に苛立ちを感じたエピソードが記されてはいるものの、新しいアイテムを得てからの池谷氏は、これまでの山内型式学での苦悩から解放され、心の底から探求の旅を楽しんでいたに違いない、と私は勝手に思っています(実際そのようにしか見えませんでしたから・・)。


「目的」を達するために必要な「手段」を選択する・・・これはいたって真っ当なものごと流れだと思います。しかし、固定観念を越えてまで最も必要な「手段」を選択することは、なかなかできることではないと思います。

池谷氏は、考古学上の目的に達するための手段を、いわゆる「考古学的手法」という誰もが手を伸ばしたくなる小さな箱の「外」から選びだしました。単純にそれが目的を成すためのベストな手段だ、と考えたからだと思います。

もちろん、そこから全く新しい分野の知識を身につけ、バックデータの蓄積をおこない、自費で自宅の書斎にX線装置を導入し(これにはさすがに驚いた)・・ほかにも先駆者しか知り得ない多くの壁を突破することに全力を注がれたことと思います。

そして結果的に、氏の言葉をそのまま借りると「石器の形態や編年をいくら突き詰めても明らかにできない世界」を私たちに見せてくれました。それも黒曜石さながらの鋭利な切り口で・・です。

「何が分かるか」ではなく、「何が知りたいか」。とてもシンプルかつ大胆な研究スタイルだと思います。そして、このようなスケールの仕事を涼しい顔でやってしまうあたり、氏はまさにボーダレスな本当の探求者なのでしょう。


以上、勝手に感想を書きましたが、これら一語で表せば
嬉しい
につきます。

今後、ますますのご活躍をお祈り申し上げます。


それでは。

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