2011年8月16日火曜日

PEAKIT ~開度演算による考古資料3Dデータの表現~(後編)

こんばんは。YOKOYAMAです。

あの震災から5ヶ月余りが過ぎました。
地震の揺れによって社屋周辺の電柱が何本か傾いていましたが、数日前の工事でようやく 真っ直ぐになりました。またすぐ側の棟には沿岸部で被災した会社が数社移ってきて、この場所で再起をはかるそうです。
そして私の本業も、お陰様ですっかり忙しい日常を取り戻すことができました。
被災モードから復興モードへと完全にシフトした、そういう一ヶ月でした。

さて今日は前回からの続き、「PEAKIT」についてまとめます。



RELIEF開度PEAKIT という図式

考古学的な解析において「レリーフ」と「開度」は以下のような関係になります。

PEAKITの概念

ひとつの対象物でもその表面には多様なレベルの起伏があります。
レリーフ処理は比較的緩やかな起伏の抽出に長けたアルゴリズムで(関連記事 「"RELIEF” という表現方法とその意味」)、一方、開度処理は細かい起伏を鮮明に抽出することに長けたアルゴリズムです(関連記事「PEAKIT ~開度演算による考古資料3Dデータの表現~(前編)」)
これら2つの解析画像を重合し、それぞれの単独処理では及ばないところを相互に補完させようというわけです。

そして、この「開度」のアルゴリズムを含む処理画像は、総称して「PEAKIT」と定義されています(Chiba,F., Yokoyama,S , "New Method to Generate Excavation Charts by Openness Operators" , 22nd International Symposium CIPA 2009)。


縄文土器片のPEAKIT生成

それではレリーフ、開度、PEAKITの各処理を縄文土器片に適用します。


1)縄文土器のレリーフ画像

下図はおなじみ、縄文土器のレリーフ画像です。

縄文土器のRELIEF画像

2)縄文土器の地上開度画像

下図は縄文土器に地上開度画像です。
※ただし実際には地形情報処理における地上開度のアルゴリズムに改良を加えたものを適用しています。

縄文土器の地上開度画像

3)縄文土器のPEAKIT画像

そしてこれが1)レリーフ画像と2)地上開度を重合させた「PEAKIT」です。
※異なる2つのアルゴリズムによって抽出される特徴線が相殺しないよう、開度はグレー階調、レリーフはブラウンの階調のグラデーションにしています。

縄文土器のPEAKIT


PEAKITの評価

ではこのPEAKITについて、いくつか焦点を絞りこんで詳しく観察します。

1)まず土器片の概形に着目してみましょう。

輪積の可視化検証

土器片自体の湾曲、輪積などの大きく緩やかな起伏の状態はレリーフ画像によくその特徴が表されています。一方地上開度画像では全くこれを表現できず、ノッペリした平板な土器片に見えてしまいます。

この両者を重ね合わせた「PEAKIT」では、当然湾曲や輪積の単位をはっきりと読み取ることができます。すなわちレリーフ処理が開度処理の短所を補っているわけです。


2)つぎに縄文の節と条の表現を見てみましょう。

縄文施文の可視化検証図

レリーフ画像は、陰影効果によって器面の相対的な高低差を表すことが出来ます。一方、地上開度画像は、節や条のエッジが黒くくっきりと縁取られた拓本のような画像になります。

そしてこの両者を重ね合わせた「PEAKIT」では、二つの画像が相互にその長短を補完しあうことで、上図のように原体の種類、施文の単位や順序の読み取りが可能になるわけです。

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3)最後に裏面の調整の表現を見てみましょう。

裏面調整の可視化検証図

まず赤で 囲った部分に着目します。PEAKIT画像ではこの部分に「調整の端部」があることを読み取ることができます。ところがその大元のレリーフ画像、地上開度画像からはこれを認識するのは難しいことがわかるかと思います。

つぎに青で囲った部分に着目します。PEAKIT画像ではこの部分に「縄の痕」があることを読み取ることができます。ところが大元のレリーフ画像、地上開度画像からは、このくぼみを「縄である」と認識することは困難です。

これらは個別の単独処理では稀薄だった特徴が、別系統の解析画像と重合することによって強調され、はじめて考古学的な特徴として認識できるというケースです。PEAKIT処理の効果ついて多くの検証を重ねると、こういうケースも決して珍しいことではないことがわかります。


まとめ

以上、前後編の2回に分けて開度演算を駆使したPEAKIT技術を解説してきました。
短くまとめると、ひとつの3次元データから系統の異なる複数の解析をおこない、それらを再統合することにより、合理的に可視化する・・その根幹を成すのが「開度演算」という特徴線抽出のアルゴリズムだ、ということです。

私はこのような形状解析の可能性を知ったことで、「考古学の記録として3次元化は相応しいのか」という当時抱いていた一抹の迷いはすっきりと消え去りました。というのも、考古資料の適切な3次元データがあれば、新たなアルゴリズムの発明や解析の組み合わせの開拓によって、いかようにもその表現を精錬、進化させ得ることを理解したからです。

したがって考古学の3次元データ化においては自ずと解析技術の重要性が高くなる・・ここが計測値重視の工業分野(検査やデザインなど)とは異なる、考古学特有の重要なポイントだと思っています。

それでは。

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