2011年5月30日月曜日

画像処理の理論とその考古学における可能性 (後編)

こんばんは。YOKOYAMAです。

さて、今日は「画像処理の理論とその考古学における可能性 」の「後編」です。「前編」では考古遺物の画像処理をするためにデータを変換してDEM(ディジタル標高データ:Digital Elevation Model)の状態とする、というところまでを説明しました。

今回はそのつづき、実際の画像処理方法とその考古学への可能性についてまとめます。




画像処理をする

画像処理は、簡単に言えば「元画像をもとに(入力)、処理を施し(演算)、新しい画像を得る(出力)」という作業です。

濃淡画像の処理の方向性にはいくつかありますが、
1)エッジ検出処理:画像の濃度値が急激に変化するところを検出する
2)平滑化処理:画像を滑らかにする
3)強調処理:画像を鮮明にする
などがあります。

では、さっそく簡単なDEMのサンプルを用いて、実際に基本的な「微分フィルターを用いた横方向のエッジ検出処理」をしてみます。


(6)横方向のエッジ検出処理を施す
左下の正方形メッシュ「D」が標高値を格納したDEMのサンプルです。これが「入力画像」となります。標高値(投影面とポリゴンデータとの距離)が大きいところほど白く、小さくなるほど黒く色付けをした状態ですから、この模式図は菱餅のような形(ただし下の餅は上の餅の2倍の厚さ)だと考えてください。

右下の正方形メッシュ「E」が処理結果を格納する「出力画像」となります。
上の3×3の格子が横方向エッジ検出の「微分フィルタ」といいます。このフィルターを使ってDEMに「演算」を施し「E」に出力します。



演算方法は、「積和演算」といわれる方法です。
上図で、出力画像の緑の画素に入る値は、以下のように求められます。
1)微分フィルタのピンクの画素と、DEMの黄色の画素を重ねる
2)重なった画素どうしで、フィルタの値とDEMの値を掛け合わせる
3)さらにその結果を全て足し合わせる

したがって緑の画素に入れる値は、
0×00×00×00×(-1)0×10×00×00×00×0 = 0
となります。

これをラスタースキャン(左から右へそして次の行の左から右へと1画素づつ演算)して、求めた値を出力画像のしかるべき画素へ次々に代入していきます。


(7)横方向のエッジ検出処理結果
これがDEM「D」の横方向のエッジ検出の結果です。値が大きいところほど白く、小さくなるほど黒く色付けをした状態です。菱餅の縁部分が絶対値が大きくなっている様子が炙り出されました。さらによく見ると下餅は上餅の2倍厚ですから、下餅エッジの値は上餅エッジの2倍の値となっています。


このエッジ検出は、縦方向、斜方向も同じような演算によって検出されます。つまり「-1」を微分フィルター内のどこにセットするかによって、どの方向のエッジを検出するかが決まるわけです。


(8)その他の代表的なフィルター
微分フィルターと同様に、積和演算が適用されるフィルターで代表的なものを2つあげます。



上図左のフィルターは、エッジ検出処理の仲間の「ラプラシアンフィルター(Laplacian filter)」です。フィルターの構造を見ると上の「微分フィルター」が左方向と差を検出するのに対して、ラプラシアンは上下左右4方向の差を同時に検出することが分かります。

上図右のフィルターは、平滑化処理の仲間の「平均化フィルター」です。フィルターの構造を日本語に訳すと「着目画素に隣接する9画素を全て足して9で割りなさい」という意味ですから、突出した画素も近傍の値に埋没することになります。その結果、平滑な画像が得られるわけです。微細な起伏を観察したい考古学ではこの平滑化処理はあまり出番は多くないかも知れません。


画像処理の結果

さて「微分フィルターを用いた横方向のエッジ検出処理」と「ラプラシアンフィルターを用いたエッジ検出処理」を実際の土器に施した結果が以下になります。

(9)土器片に横エッジ検出をかけた画像



(10)土器片にラプラシアンをかけた画像




考古学における画像処理の可能性

エッジ検出の結果、ラプラシアンの結果、実測図と比べていかがでしょうか。どちらの処理結果も「縄文土器の表現」とするには「うーん・・」という感想を持たれたかと思います。しかし今回はそれでいいのです。というのも、この方法とは別に対象資料毎に適切な画像処理法があることがわかってきているからです。

さて、上記の処理のプロセスから「画像処理」の特性として確実にいえること、以下の4点に整理します。
  • 「定量性」:3次元データ、フィルター、処理画像の全てが、ある条件のもとに得られた数値の塊であること。
  • 「再現性」:3次元データの画像処理は、何回やっても同じ結果を得られること
  • 「客観性」:3次元データの画像処理は、誰がやっても同じ結果を得られること
  • 「多目的性」:3次元データからユーザーのニーズに応じた多様な画像を得られること


上図は過去に提示した「3次元データを中心としたアーカイブズ」の概念図ですが(過去記事参照)、この図でいうと「画像処理」は黄色の部分に該当します。つまり「記録/共有」された生のデータから「評価」を生み出すまでの橋渡し的な技術と位置づけたわけです。

その橋渡しを可能にする理由は、画像処理技術が上に掲げた「定量性」「再現性」「客観性」「多目的性」を保持した状態で、対象の形情報を「可視化」することができるからなのです。別の表現をすれば、この「画像処理」の技術があるからこそ「生データによる保存共有」の実現可能性が高まると言えるでしょう。


さて、ここからさらに妄想?をふくらませます。

「3Dデータ」と「評価」との間に「画像処理」が介在することにより、3者が相互に依存・影響し合わない、それぞれ独立した状態で管理することができるようになります。

これによって、全ての情報が一体となった現在の「静的アーカイブズ」とは異なり、たとえ将来「画像処理技術」「考古学的視点」がそれぞれ大きく変化しても、生の「3Dデータ」に対して何度でも「画像処理」や「評価」を追加、更新できる「動的アーカイブス」とすることができるわけです。

この構造は「時間の経過に伴う"価値"の変化」によって、アーカイブズ本体が破綻する(意味を失う)リスクを最小限に抑える構造だと言えると思います。
(実を言うと、このような画像処理の特性にも「〜〜性」という明快な一語を冠したかったのですが、自分の語彙力不足につき断念しました・・・。)

いずれにしろ、アーカイブズは過去ではなく「現代以降」に生きる全ての人に開けたものです。ですから、将来高い確率で起こるだろう「価値転換の大津波」に対する「想定」は最大限に推し量ったうえで、その時に備えたいものです。


それでは。

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